このシリーズは「古典に疎い人でも楽しめて、古典に詳しい人でも満足できる」をコンセプトに、イラストやおまけ知識も含めながら古典作品を解説していくコーナーです。
前回のうつほ物語のレビューに続き、古典名作第2段は説話文学最大級の作品である「今昔物語」!
有名な作品ですから名前を知っている人も多いと思います。
説話物語の代表作の一つであり、千を超えるストーリーが収められているのだとか。(すみません、全部読んだわけではないです...)
それではさっそく、見ていきましょう!
今昔物語の概要は?
今昔物語は、タイトルにもあるように日本で最大の説話集。
千以上もの作品が収められており、その内容も外国や妖怪などを含むというビッグスケール。
昔の人の価値観や世界への興味が存分に込められています。
ちなみに、「今昔物語」という名前は、「今は昔・・・」で始まることに由来しています。
内容
今昔物語はとっても壮大な作品ですが、それでも説話”集”というだけあって短い作品を集めたものです。
そのため物語のジャンルが近いもの同士でまとめられており、順に...
①インドの仏教に関する物語(仏教説話)
②中国の仏教説話
③中国の一般的な物語(世俗物語)
④日本の仏教に関する物語
⑤日本の世俗物語
と、大まかですが分けることができます。
こうして見ると、今昔物語がグローバルな内容になっているのがわかりますね。
(当時の日本人にとっては中国・インド・日本が世界のほとんどみたいなもんです。コロンブスがアメリカ大陸を発見する300年前の作品ですから。)
中でも注目なのが
⑤日本の世俗物語
日本全国を舞台としており、上流階級から庶民まで、またちょっと笑える話から妖怪話までと、本当に多彩な作品が収録されています。
今昔物語の有名な作品
数々の面白い物語が載っている「今昔物語」ですが、中でも”これは!”というユーモアに富んだ作品を一つ紹介します。
日本の世俗説話に分類される恋愛をテーマにした作品ですが、結構有名なので知っている人も多いかと思います。
ただ、ちょっとだけキレイでない内容になっているので食事中の方(食事中にスマホ見る人はいないかもしれませんが)、そんな話はノーサンキューな方は遠慮せず飛ばしてくださいませ。
(以下、要約&読みやすい現代風に書き換えたもの)
『惚れた女性をへの恋を諦めるために排泄物を盗む話』
今は昔、平中という身分も良くて超イケメンのモテモテ男がいました。
立ち居振る舞いも上品でトークも抜群だったので、あらゆる女性がこの平中に声をかけられたいと思っていました。
平中は、よく行く大臣の家にいる奥ゆかしくて綺麗な侍女に惚れ込んでしまい、何度もラブレターを送ります。ところが女性は返事すら書いてくれません。
平中と女性のショートコント①
返事すら書いてくれない寂しい日が続くので、平中は
「この手紙を読んでくれたらせめて『見た』とだけでも返事ください・・・」
という手紙を送ります。
使いのものが手紙の返事を持ってきたのでドキドキしながら見てみると、平中の出した手紙の中の
「この手紙を読んでくれたらせめて『見た』とだけでも返事ください・・・」の『見た』を切り取って別紙に貼り、それを送って来たのでした。
・・・逆に手間じゃない!?
わくわくさんも呆れるようなレベルの図工であしらわれて、平中はさらに女性のことが気になってしまいます。
平中と女性のショートコント②
ある土砂降りの日。
平中は「こんな雨の日に訪ねて行ったら、女性も『雨にも構わず来てくれたのね!』と感動してくれるに違いない」と思い、女性のところまで訪ねていきました。
女性の召使いわく、「みんなが寝静まるまで待っててください」とのことなので、これは手応えあったな、と楽しみに外で待っていた。夜になってみんなが寝てしまった頃に家の鍵を外す音が聞こえたので、平中は中に入る。暗闇の中に、お香の香りが立ち込めている。夢にまで見た女性の家に入ることに緊張しつつ、部屋の奥へ進む。
部屋が暗いのでゆっくり進むと、寝床に女性が横になっているのに気づいた。
平中は緊張のあまり喋ることもできずにいると、女性は思い出したように
「鍵をかけて来るのを忘れたので、かけてきますね。」と言い残し、起き上がって出ていきました。
平中はこれからのことを想像しながら服を脱いで寝床に入っていたのですが、女性はなかなか帰ってきません。
不審に思って扉のところまで行ってみると鍵はかかっているのですが、なんと女性は外側から鍵をかけており、平中は閉じ込められていました。
平中は女性の手の中で遊ばれていることに気づかなかったのですね。
平中と女性のショートコント③〈本編〉
(ここから先は排泄物が物語の主役になってきますが、排泄物と何度も書くのもなんかあれなので、以下排泄物=歴史と表現します。排泄物はその人の歴史なのです。)
ここまで女性にいいように弄ばれてきた平中でも、女性への思いは消えません。そこで、自身の恋を諦めるために、平中は思い切ったことを考えます。
「あの人のような美しい人でも、歴史を排出することはあるだろう。それをこの目で見れば百年の恋も流石に覚めるはずだ。」
(その当時はもちろん下水道設備なんてものはなく、歴史は専用の箱(おまるみたいなもの?)に入れておいて召使が捨てに行っていたようです。)
そこで平中は召使から歴史の入った箱を奪い、箱の外観をひとしきり眺めたあと、ついに蓋を開けます。
さあ、これでこの叶うことのない恋も終わりだ。
その思いとは裏腹に、箱の中からは素敵な香りが漂ってきました。
そんなことがあるわけないと思い、一口食べてみると、ほろ苦く甘い。そして、香り高い。
ここで男は女性に一本取られたのだと気づきます。
女性は箱の中に本物の歴史ではなく、液体の方は丁子(=クローブ。香りの良いスパイス)を煮た汁、個体の方の歴史は練り香(お香の種類の一つ)を入れておいたのだ。
平中に歴史を盗まれることを予見して・・・。
平中は、この女性はなんて気のつく女性なんだと感動してしまって、ますます恋にのめり込み、狂い死んでしまったのでした。
・・・となむ語り伝えたるとや。
いかがでしたでしょうか。
百年の恋を覚ますために、「そうだ、う○こ盗もう」という発想には才能すら感じてしまいます。
そして、その行動を予見した女性は更に一枚上手。
しかもまさかの悲劇の結末。
非常に高いレベルの話でしたね。
他にも、煩悩を断つために自分の男性自身を切り落としたように見せかけ、托鉢をもらおうとした僧侶が実は袋の中に男性自身を隠している詐欺師で、侍女にさすられたことで大きくなってしまい企みがバレてしまう、という笑い話もあります。
発想がぶっ飛んでいて伝わっているのかわかりませんが・・・。
もちろん今昔物語にはこのような笑える(逆に笑えないかな?)下ネタばかりでなく、考えさせられる話や純粋に関心してしまう話もあります。
今回取り上げたのはインパクトが強烈すぎてネットなどでも話題になったことのある作品だからです。
そういう意味では今なお読み継がれている今昔物語。
ぜひ買って読んでみてください。
古典作品としての評価
壮大な作品としての「今昔物語」
今昔物語はまず、
①日本最大の説話集(一説によると1059話。)
②国境や身分をまたぐ多彩な作品群
という2つの特徴を挙げることができます。
今なお未完の「今昔物語」
また少しマニアックな話になりますが、今昔物語に掲載されている作品はわかっている限り地名や人物名を記載しており、不明な部分がある場合は「今は昔、 の が・・・」というように後から書き込みができるように空欄にしてあります。
作者不明ではありますが、この作者は日本説話辞典のようなものを作ろうとしていたのでしょうか。
そういう意味では、空欄が全て埋まったときが、今昔物語の本当の完成。そして、今なお未完の大作と言えるのではないでしょうか。
このあたりはアラビアンナイト(千夜一夜物語)と少し似ている部分もありますね。
もうひとつの傑作説話集、「宇治拾遺物語」との比較
古典を代表する説話集の一つが「今昔物語」であることは間違いありませんが、日本の歴史が僕たちに与えてくれた説話集の金字塔はもう一つあります。「宇治拾遺物語」です。
多くの教科書に掲載され、「稚児の空寝」「絵仏師良秀」などは馴染みのある方もいらしゃると思います。
「宇治拾遺物語」との比較、という視点からスポットを当てて、「今昔物語」を見てみましょう。
今昔物語の後に作られた宇治拾遺物語
今昔物語は、宇治拾遺物語よりも100年ほど前に書かれた作品だと推察されています。(詳しい成立年代は不明ですが、成立年代は研究者によってある程度絞られています。)
「今昔物語」が中古と呼ばれる時代に作られたのに対して、「宇治拾遺物語」は中世の時代に作られています。
そのため、宇治拾遺物語は同じ説話集でも今昔物語とは違った切り口、異なるテーマで作成されています。それが・・・
2作品の世界観
です。
宇治拾遺物語には滑稽な人間や面白い登場人物が数多く登場し、作品全体を通して「人間」を追及しているように感じられます。
対して今昔物語では先ほども書いたように、世界への関心の高さが伺えます。
この「人間か」「世界か」という点が、2作品の大きな違いだと思っています。
Column!「今昔物語を題材にした名作達」
ここで真面目なモードは終わり。
息抜きがてら、ちょっと今昔物語のトリビアを。
日本人なら誰もが知っている有名な文学作品の中に、今昔物語をモデルにしたものが存在します。
その最たる例が、芥川龍之介。
『羅生門』『鼻』『芋粥』などの代表作を含む10作品以上が今昔物語を下敷きにしています。
また、幸田露伴、菊池寛、谷崎潤一郎、堀辰雄などの超一流の作家も今昔物語を基にした作品を残しています。
そういう意味でも、今昔物語が及ぼした影響の大きさを感じてしまいますね。
古典作品に興味を持ったら...
もしこの記事を読んで古典の世界に少しでも興味を持ったら、このブログの他の古典記事を張っておくのでぜひ読んでみてください。
http://isakidiary.com/utsuho-monogatari/
また、コメントも随時募集しています。